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相続登記の義務化についての誤解
いよいよ、令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。
テレビやインターネット、雑誌など各メディアで度々取り上げられるため、一度は耳にした方も多いのではないでしょうか?
最近はご相談をいただく際にもよく話題になるのですが、一部の誤った情報からこの件を誤解をしている方もいるようなので、
4月から始まる「相続登記の義務化」について正しく知っていただければと思い、以下解説していきます。
【誤解その1】 令和6年4月1日までに相続登記をしなければならない?
実際、慌てて相談に来られた方がいましたが、これは勘違い。
今回の法改正で、相続で不動産を取得した相続人に対し、取得を知った日から3年以内の相続登記が義務付けられました。
また、施行日である令和6年4月1日以前に発生した相続については、施行日から3年以内に申請すればいいので、
現時点では、そんなにあわてて相続登記をしなければいけないということはありません。
【誤解その2】 義務に違反したら即10万円以下の過料になる?
上記のとおり、令和6年4月1日以降相続登記は義務になります。
正当な理由なく義務に違反した場合、10万円以下の過料になります(不登法164条)。
※過料とは、行政上の義務違反について課されるものです。よって、刑事事件の「罰金」とは用語として区別されますが、一般的には「罰金のようなもの」という理解でいいと思います。
そこで、「3年以内に相続登記の申請をしなかったらすぐに10万円の過料になるの?」と心配している人もいます。
が、これもやはり勘違いです。
(1)まず、「正当理由なく申請を怠ったとき」という条件がありますので、
期限内に相続登記を申請しなかったことに正当な理由がある場合は過料になりません。
では、「正当な理由とはなにか」ということですが、
法務省の通達では以下のような場合は、「正当な理由がある」としています。
①相続人が極めて多数で戸籍等の収集や他の相続人の把握に時間がかかる場合
②亡くなった人が残した遺言の有効性や遺産の範囲等について相続人間で争いがある場合
③申請義務を負う人が、重病などの事情がある場合
④申請義務を負う人が、DV被害者など生命心身に危害が及ぶ恐れがある状態である場合
⑤申請義務を負う人が、経済的に困窮し登記費用を負担することができない場合
※これらに該当しなくても個別の事情から正当性が認められる場合は「正当な理由がある」となります。
(2)次に、法務局(登記官)がどのような方法で義務違反者に対して過料を通知するのかですが、
通達によると以下のような流れです。
①登記官が義務違反を把握
②相続人に対し、相続登記の義務の履行を催告
(ア)催告に応じて相続登記を申請した場合
→過料にはならない
(イ)催告に対して正当な理由がある旨の申告をし、認められる
→過料にはならない
(ウ)催告に応じず、正当理由もなく義務を履行しない
→過料になる
上記のとおり、「義務違反!即過料!」ではなく、
法務局からの催告に応じず、そのことに正当理由がない場合に限って過料になるため、
現実的に過料になる可能性はほとんどないと思います。
【誤解その3】 相続登記が一人でできるように簡単になった? 相続人申告登記の申し出をしておけば大丈夫?
今回の相続登記の義務化に対し、「国民に対して過度な負担である!」とのクレームの声が多いため、
国としては「面倒な相続登記をしなくても簡単に申請義務の履行だけはできますよ」と、
負担の軽い新たな手続きをつくりました。
これが「相続人申告登記」です。
相続人申告登記の申し出を期限内に行えば、
相続人に課された相続登記申請義務を履行したものとみなされます(不登法76条の3②)
相続人申告登記の申し出は相続人の一人から自分の分だけでもできますし、
必要な戸籍も自分と亡くなった人の分だけなので手続きは難しくありません。
この「一人からできる」という部分が独り歩きして、
「『相続登記』が相続人の一人から簡単にできるようになった」
と誤解をしている人がいます。
遺言がない場合の相続登記は、あくまで法律上の相続人全員の協力が必要です(法定相続登記は除く)。
「(相続登記の義務を履行したことになる)相続人申告登記の申し出」が、自分一人でもできるだけであり、
相続登記が一人でできるわけではありません。
名前が似ていて紛らわしいのですが、
「相続人申告登記の申し出」は「相続登記」ではありません!
そのため、「相続人申告登記の申し出」をしたからといって、不動産の名義変更ができたわけではありません!!
相続人申告登記とは、単に、
「その不動産の名義人について相続が発生しており、(確定的な相続人ではないが)申出をした人が相続人の一人であること」
を公示しているにすぎないのです。
※登記記録の記載例をみましたが、こんな登記が現実に入っていたら一般の人は誤解する人も多そうだと感じました。
また、結構見落としがちなことですが、
当初3年以内の相続登記が難しいと考え「相続人申告登記の申し出」をしていても、
その後、相続人間で遺産分割協議が成立し確定的に不動産の所有権を取得した場合は、
「遺産分割の成立の時から3年以内に」相続登記を申請しなければならない(改正法附則5条⑥)
という追加の義務も発生します。
一度申告登記をしたからといって「それですべて終わり」ではありません。
一般的に、相続人がそれなりの人数いたとしても、3年もあれば十分相続登記の手続きはできます。
そのため、「わざわざ相続人申告登記の申し出が必要なケース」というのは、正直あまりないと思います。
相続人申告登記の申し出をする必要があるケースというのは、
「遺産分割内容に相当争いがあり3年以内にはとても協議が成立しそうにないようなケース」くらいではないでしょうか。
【誤解その4】 じゃあ、結局相続登記はそんなに急いでやらなくていいんじゃない?
上記で解説してきたとおり、義務違反の過料を恐れてあわてて相続登記をやる必要はないと思います。
また、3年以内にすればいいので時間的にも余裕はあります。
それでも、相続登記の専門家である司法書士としては、「相続登記はなるべく早くやったほうがいい」と思います。
相続の手続きは放置すればするほど時間とお金がかかる傾向にあります。
当初は数人だった当事者に二次相続、三次相続が発生してどんどん当事者が増えていく。
相続人の中にはまったく面識のない人も多く、数が増えれば増えるほど、行方不明者、認知症患者、外国人など手続き困難な人が出てきます。
相続については単に放置しても何の解決にもなりません。
問題を先送りすれば、ご自身の子や孫など次世代にツケを回すだけです。
そもそも、「相続人として一切関与するつもりがない」のであれば、
すみやかに家庭裁判所で相続放棄をして当事者から外れる必要があります。
また、田舎の管理できない空き家や、どこにあるかもわからない山林などが相続対象の場合は特に注意が必要です。
適切な管理をせずに放置していたことで損害が発生した場合などは、
(相続登記していなくても)所有者として責任を追及される可能性があります。
令和5年4月27日に、相続した土地を管理できない場合に国が引き取る制度(相続土地国庫帰属制度)ができました。
承認要件や負担金の問題があり、どんな土地でもすんなり引き取ってもらえるわけではありませんが、それでも一歩前進ではないでしょうか。
今回の相続登記の義務化にあたって、
様々な業界から色々な情報発信がされ、
中には誤解を招いたり、不安を煽る表現をしているものも散見されます。
相続登記の専門家は司法書士です。
相続登記についてお悩みの方は司法書士へご相談ください。