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相続の手続きで司法書士に依頼できること、できないこと
司法書士は、「相続」に関する手続きの専門家の一人ですが、一口に「相続の手続き」といっても色々あります。
死亡届からはじまり、役所関係の届出、年金・保険の手続き、銀行預金の解約、不動産の名義変更、相続税・・・・
相続の手続きの中には、①相続人が自分でできること、②専門家の力を借りないと難しい専門的なことの2種類があります。
また、「専門家」といっても、弁護士、税理士、司法書士など、日本には「〇〇士」とつくいわゆる「士業」の種類が多く、「誰に何を頼めばわからない」という声は日頃よく聞きます。
また、最近は「相続〇〇士」などの民間資格サービスもあり、一般の方からすれば、いよいよ「誰に何を頼めばいいの?」という状況になってきました。
私自身、他の資格者や事業者が、相続についてどのようなサービスが行えるのか全て把握しているわけではありません。
また、特に民間の資格サービスは、各士業の独占業務とされる具体的な手続き(裁判、不動産名義変更、税金、年金、許認可など)をすることはできませんので注意が必要です。
そこで、本日は、「相続の手続きの中で主に司法書士がお手伝いできること」について説明していきますので、ご参考ください。
※各手続きの具体的な説明はそれぞれあらためて別の機会に解説します。
1.相続人の調査
(1)戸籍の収集事務
司法書士は依頼を受けた案件について必要な戸籍や住民票などを、依頼者の代わりに取得することができます。
相続の手続きは戸籍を集めないことには始まりませんので、平日、役所で戸籍を集める時間が取りにくい方などは司法書士へ代行を依頼するのも手です。
<一般的に必要な戸籍等(※事案によって異なります)>
- 本人の出生から死亡までの戸籍、改製原戸籍、除籍など
※令和6年3月以降は、広域交付制度により相続人が最寄りの市役所等でこれらを取得できるようになりました。
これにより戸籍の調査がずいぶん楽になりましたので、まず、相続人自身で戸籍をある程度取得し、
足りない分(取れない分)を司法書士に頼むのがスムーズだと思います。 - 本人の戸籍の附票又は住民票の除票
- 相続人の現在戸籍
(2)相続関係図の作成
上記(1)で集めた戸籍を読み取りながら相続関係図(家系図のようなもの)を作っていきます。
相続は、「亡くなった方の死亡日」を基準に相続人を確認していきますので、相続が開始した後にさらに相続が発生している場合(数次相続)や、本人がなくなるより前に相続人になる方が死亡している場合(代襲相続)など、事案によっては、自分たちが想定していない相続人が出てくることもあります。
相続に関する法律も年々改正されていますので、注意が必要です。
万が一相続人を見落としたり、取り違えていた場合は、後で大変な問題に発展しますので、相続人の調査はなるべく専門家に任せることをおすすめします。
(3)法定相続情報の作成
法定相続情報とは、上記(1)で集めた戸籍や住民票などを基に法務局で作成してくれる証明書です。
法定相続情報は、A4サイズの紙1枚(事案によっては複数枚)が、集めた戸籍の束の代わりの公的な証明書として利用できます。
法定相続情報を作っておくと、
①今後の各種手続きごとに戸籍の束を提出する手間が省ける
②同時に複数の手続きを並行して行える
などメリットが多いので、なるべく作成することをおすすめしています。
2.不動産の名義変更
司法書士の従来からの主な業務です。
通常は、上記1の相続人の調査に加えて不動産調査を行い、遺産分割協議書の作成、法務局への登記申請まで一括で行います。
よって、主に相続財産が自宅と預貯金があるくらいで、預金解約事務は相続人自身で行えるという方は、司法書士へ依頼するだけで相続手続きが完結するという場合が割と多いです。
3.遺産分割の当事者に法的な問題がある場合
(1)相続人の中に認知症の人がいる
相続人の中に、認知症等で判断能力が低下している方がいる場合、その状態のまま遺産分割協議を進めることができません。
仮にそのような状態で協議書を作成し、他の相続人が代わりに署名押印して形式的には書類は整ったとしても、法的には無効です。
将来、トラブルになる可能性がありますので、手続きを安全にすすめるためには、事前に家庭裁判所で成年後見人等を付けてもらう必要があります。
後見人等をつけてもらうためには、管轄の家庭裁判所に申立てが必要です。
司法書士は、家庭裁判所に提出する成年後見選任の申立書の作成をすることができます。
また、家庭裁判所から選ばれ、後見人等に就任することができます。
(2)相続人の中に行方不明の人がいる
相続人の中に、連絡等がまったくとれず、生存確認ができない行方不明者がいる場合、その状態のまま遺産分割協議を進めることができません。
行方不明者の代わりに遺産分割協議に参加する「不在者財産管理人」を家庭裁判所で付けてもらう必要があります。
不在者財産管理人をつけてもらうためには、管轄の家庭裁判所に申立てが必要です。
司法書士は、家庭裁判所に提出する不在者財産管理人選任の申立書の作成をすることができます。
また、家庭裁判所から選ばれ、不在者財産管理人等に就任することができます。
(3)相続人の中に互いに利益相反関係になる人がいる
相続人の中に、①未成年の子と親や、②被後見人等と親族後見人など、利益相反関係になる当事者がいる場合、その状態のまま遺産分割協議を進めることができません。
遺産分割手続きを進めるために「特別代理人」を家庭裁判所で付けてもらう必要があります。
特別代理人をつけてもらうためには、管轄の家庭裁判所に申立てが必要です。
司法書士は、家庭裁判所に提出する特別代理人選任の申立書の作成をすることができます。
また、家庭裁判所から選ばれ、特別代理人に就任することができます。
4.手書きの遺言書が見つかった場合
※ご本人が生前に「公正証書遺言」を作成している場合、以下(1)(2)の手続きをせず速やかに名義変更や預金解約等ができます。
(1)遺言書検認申立て
手書きの遺言書は本人の死後すぐそのまま使うことができません。
家庭裁判所にて、その遺言書が法律の要件を満たした内容で作っているかのチェック(「検認」といいます)を受ける必要があります。
遺言書の検認は、戸籍調査をした上で、管轄の家庭裁判所に申立てが必要です。
司法書士は、家庭裁判所に提出する遺言書検認申立書の作成をすることができます。
(2)遺言執行者選任申立
遺言書はあるが、遺言執行者が指定されていない、または指定された遺言執行者がなくなっている場合などに、相続手続きについて他の相続人の協力を得ることがときは、遺言執行者を選任する必要があります。
遺言執行者をつけてもらうためには、管轄の家庭裁判所に申立てが必要です。
司法書士は、家庭裁判所に提出する遺言執行者選任の申立書の作成をすることができます。
また、家庭裁判所から選ばれ、遺言執行者に就任することができます。
(3)遺言に基づく不動産の名義変更
司法書士の従来からの主な業務です。
事案に応じて、遺言書検認申立て、遺言執行者選任申立なども併せて行い、法務局への登記申請まで一括で行います。
また、相続人が遺言執行者になっている場合、遺言執行者としての業務をサポートすることができます。
5.相続放棄したい場合
相続放棄の申述
亡くなった方の遺産がマイナス財産が多く一切引き継ぎたくない場合や、
ある日突然、「あなたは〇〇さんの相続人の一人になっていますので、遺産分割手続きにご協力ください」という趣旨で手紙が届いたが関わりたくないという場合などは、
自分が相続人であることを知った日から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申立てをする必要があります。
相続放棄をするには、戸籍調査を行い、期限までに管轄の家庭裁判所に申立てが必要です。
(※期限を過ぎてしまうと相続放棄が受理されない可能性があります)
司法書士は、家庭裁判所に提出する相続放棄の申述書の作成をすることができます。
6.相続人が誰もいなくて困っている場合
(1)相続財産清算人選任申立
本人に何らかの遺産(プラスだけでなくマイナスも含め)あるのに相続人が全員相続放棄した場合や、もともと誰も相続人がいない場合などは、誰も管理する人がいなくなってしまうと、債権者など利害関係がある方は困ってしまいます。
そこで、利害関係がある方から、家庭裁判所に相続財産清算人(以前は「相続財産管理人」といっていました)の選任の申立てを行い、選ばれた相続財産清算人が相続財産の管理や清算を行います。
司法書士は、家庭裁判所に提出する相続財産清算人選任の申立書の作成をすることができます。
また、家庭裁判所から選ばれ、相続財産清算人に就任することができます。
(2)特別縁故者財産分与申立
上記(1)のように相続人が誰もいないが、遺産が残っている場合において、法律上の相続人ではないが、生前本人に尽くした方(特別縁故者)がいる場合、その方からの申立てがあれば、事情に応じて遺産の中から財産を分与することができます。
司法書士は、上記(1)の相続財産清算人の選任申立に加え、特別縁故者からの財産分与申し立てについて書類を作成できます。
7.遺産分割の話し合いがまとまらない場合
(1)相続人申告登記
令和6年4月1日から相続登記が義務になり、原則3年以内に相続登記をしなけれないけなくなりました。
正当理由なく義務に違反した場合は過料になる可能性があることから、最近はすぐに相続登記をする方が増えました。
ただし、相続人間の感情的な対立が激しく話し合いがなかなかまとまらないと3年を過ぎてしまうケースもあります。
そのような場合、暫定的に相続人の一人であることを申告する登記をしておけば、義務違反を問われないというのがこの相続人申告登記です。
※正直にいうと、あまりおすすめする制度ではありませんが、やむを得ず申告登記をする必要がある場合、司法書士にて対応することはできます。
(2)遺産分割調停申立書作成
遺産分割協議は、法律上の相続人全員で行う必要があります。
たった一人でも賛成しない場合(明確な反対はせずとも反応がない場合を含む)、いつまでたっても協議はまとまりません。
その場合は、管轄の家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てる必要があります。
司法書士は、家庭裁判所に提出する遺産分割調停申立書の作成をすることができます。
※ただし、司法書士は、家事事件について特定の依頼者の代理人になることはできないため、以下のような方は当初から司法書士ではなく弁護士へ相談することをすすめています。
・日中裁判所へいくことが困難な方
・他の相続人と一切話したくない方
・自己の相続分が他の相続人より多くなることを主張したい
・他の相続人の相続分が少なくなることを主張したい
8.その他
遺産整理業務(預金解約事務など)
最近は、相続人全員から依頼を受け、遺産管理人に就任し、関係者同士の意見調整をし、まとまった話し合いをもとに、「各種事務手続きを代行」する事務所もあるようです。
例えば、各種相続の届出、預金の解約・分配、生命保険・株式等の名義変更事務など、他の士業の独占業務に触れない事務全般です。
これらの事務は、司法書士の独占業務ではありませんが、他の相続手続きに付随するサービスとして行っている事務所も増えているようです。
ただし、当事務所では、現在、以下の理由から遺産整理業務の受任はお断りしております。
①遺産承継業務(事務代行)は司法書士の独占業務ではなく、本来、「相続人が自分で行える事務」を代行しているにすぎないこと
②当事務所は事務スタッフが少なく、上記のような代行業務を行う人的余裕がないこと
③相続人はそれぞれ特別受益、寄与分をはじめ潜在的な利益対立関係にあり、全員に対して 「中立公平な管理人」にはなり得ないと考えている。
相続業務に関し、特定の相続人の代理人になれるのは弁護士のみであり、弁護士以外のものがそのような行為を行った場合、
非弁行為として刑事罰の対象となるため、司法書士が遺産承継業務を行うことについて、現時点では消極的に考えている。
※③についてはあくまで当事務所の考え方です。他の事務所の業務を批判する趣旨ではありません。
なお、当事務所としては例外として、以下のような事案に限りお受けすることはあります。
・相続人のほとんどが高齢などで事務手続きが億劫
・相続人が兄弟姉妹や甥姪など本人との関係性が希薄
・遺産は主に預金のみで全員法定相続分で分配することに異議がない
9.司法書士に依頼できないこと
これまで司法書士が相続手続きにおいてできることをご紹介してまいりましたが、以下の手続きについては、直接ご相談は受けたり、依頼を受けることはできません。
ただし、ご相談内容に応じてそれぞれの専門家(弁護士、税理士、行政書士、不動産会社、土地家屋調査士、社会保険労務士、鑑定士など)をご紹介することはできますので、
相続に関してお悩みの際は、まずはお気軽に司法書士へご相談ください。