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不動産の売買に立ち会う司法書士って何をしている人?
不動産の売買は一般的には次のような流れで行われます。
- 事前審査(買主が融資を受ける予定の金融機関で資金計画を立てる)
- 売買契約(契約書に署名押印し、買主は手付金として売買代金の一部を支払うが、所有権移転時期の特約によりまだ所有権は売主から移転しない)
- 本審査(買主が融資を受ける金融機関からOKをもらう)
- 決済日の調整、司法書士の手配
- 決済(関係者が一堂に会し、買主が金融機関から融資を受け、売買代金全額を売主に支払う→この時に売主から買主に所有権が移転する)
通常、売主・買主は売買契約の際にそれぞれ一度お会いしていることでしょう。
ですが、決済日の当日、仲介業者や金融機関担当者以外に、当日初めて会う「司法書士」と名乗る人がいます。
さて、この人はいったい何をする人でしょうか?
今日は、「決済日に司法書士が何をしているのか」についてご紹介したいと思います。
ここでまず、今回の登場人物を確認します(通常、売主買主に仲介業者がつきますが、今回の説明上、省略します)
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売主 A
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買主 B
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買主融資金融機関 C銀行
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売主抹消金融機関 D銀行 ※売主Aは自分がローンの残債務がまだ残っているため、今回の売買代金を返済に充てて完済しようと考えてる。
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司法書士E
不動産の売買には、売主・買主のほかにも利害関係人がおり、決済日には各自の利益のために集まります。
それぞれの当事者のその場の心情としては、以下のようになります。
売主A:売買代金が確実に手元に確認できるまでは安心できないので、重要書類(権利証や印鑑証明書など)は先に渡したくない・・・
買主B:売主のAから先に書類を受け取って確実に自分に所有権を移転できないと、売買代金の支払いをしたくない・・・
買主融資先C銀行:先行するD銀行の担保が消え、確実に買主Bに所有権移転される状態にならないと、融資を実行したくない・・・
売主抹消金融機関D銀行:確実にAからローンの残金を払ってもらわないと、担保抹消登記に必要な書類を渡したくない・・・
皆がそれぞれ「自分の利益が確保できてからでないと手続きをしない」ということであれば、その場はいっこうに動きません。
一般的に、不動産の売買は高額になりますので、買主は売主に支払う売買代金を現金で準備していません。
その日にC銀行が融資を実行してくれないと売買代金の残代金を払うお金は手元にありません
。
ただし、C銀行としては本件不動産に先についているD銀行の担保が消え、名義が売主Aから買主Bに移ることが確実でないと、融資を実行したくありません。
なぜなら、万が一、売主の担保が消えなかったり、名義が買主に移らなかったら、せっかく何千万円も融資したのに、最悪の場合、融資したお金を回収できないことになってしまうからです。
さあ困った。。。。
この局面をどう打開するか?
どうすればC銀行がスムーズに融資を実行してくれるのか?
そこで司法書士Eが必要になってきます。
司法書士とは、不動産登記の専門家(国家資格者)です。
司法書士が決済に立会う目的は、利害関係者のそれぞれの利益を尊重しながら、スムーズに手続きを進めるためです。
司法書士は、売主、買主、抹消金融機関、設定金融機関など、その場にいる関係者のすべての登記手続代理人として、中立公平な立場でその場にいます。
司法書士は買主側の仲介業者を通じて手配されることが多いので誤解されやすいですが、決して買主側だけの代理人ではありません。
司法書士は、売主・買主両名の代理人として、
両者の権利が実現され、義務がきちんと履行されたことを確認した上で、
名義変更の登記を代理人として申請します。
すなわち、
売主に対しては、
①「売主として売買前に必要な義務をきちんと履行したか」
②「売主として登記に必要な書類を買主に交付したか」
③「売買代金を無事にうけとることができたか」
ということを確認します。
買主に対しては、
①売買代金をきちんと売主に全額支払ったか」
②「売主から完全な状態で所有権を取得できるか」
ということを確認します。
では、今回のケースのような場合どうなるでしょうか。
今回は、3件の登記を連続して申請することになります。 ※事案によっては他の登記が必要になることもあります。
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売主AについたD銀行の担保抹消登記
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売主Aから買主Bへの所有権移転登記
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買主B名義の不動産にC銀行が住宅ローンの担保のために抵当権設定
司法書士Eは、決済日に立ち合い、それぞれの当事者から上記3つの登記申請に必要な書類が漏れなく揃っていることをその場で確認し、
当事者の本人確認をしたうえで、各登記申請の委任状に署名押印もらいます。
一般的には以下のような書類になります。
(1)売主担保抹消登記
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Dの放棄証書(解除証書)
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Dの登記識別情報(または担保設定時の契約書)
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委任状(D銀行)
- 委任状(売主A)
(2)売主Aから買主Bへの所有権移転登記
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登記原因証明情報
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売主Aの印鑑証明書(決済日から3か月以内のもの)
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売主Aの権利証(登記識別情報または登記済証)
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売主Aの委任状(実印を押印したもの)
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買主Bの住民票
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買主Bの委任状
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不動産の最新の評価額が分かる資料
(3)抵当権設定登記(買主A名義の不動産にC銀行が住宅ローンの担保のために設定)
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抵当権設定契約証書
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買主Aの印鑑証明書(3か月以内のもの)
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買主Aの委任状(実印を押印したもの)
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B銀行の委任状
割と典型的な事例ですが、それでも結構たくさん書類がありますよね?
司法書士Eは、その場で上記書類がすべて不備なく揃っていることを確認し、「この後すぐ上記3つの登記申請が問題なく申請できる状態にあること」を確認した上で、
「では、決済していただいてかまいません」
と高らかに宣言します。
すると、C銀行は安心して、買主Bに対して融資を実行します。
C銀行としては、「登記の専門家である司法書士が『大丈夫』というのだから、間違いなくこの後すべての登記ができるのだろう」という信頼から、融資を実行します。
そして、融資金を売主Aの抹消銀行Dの指定する口座に振り込み、D銀行は担当店で無事完済処理ができたか確認します。
この後、しばらく着金が確認できるまでは少し時間がかかります。
この間に当事者間でその他の書類への署名押印や関係書類の交付をしたり、雑談をしたりします。
しばらくすると、D銀行の担当者が支店から連絡を受け、無事に着金を確認した旨を告げます(ここで売主Aは売買代金を受領したことが確認できます)。
関係当事者は安堵し、領収書の交付、その他書類のやり取り、鍵の引き渡しなどをします。
費用の清算を済ませたら決済は以上で終了です。当事者はすべて無事に終わったことで一安心します。
ですが、司法書士Eの仕事はそこで終わりではありません。
すみやかにその場を立ち去り事務所に戻ります。
預かった書類をまとめ、可及的速やかに登記申請をし、法務局の受付番号を取得する必要があります。
昔は「出頭主義」といって、法務局窓口に直接持ち込む必要がありましたが、今はオンライン申請ができますので、事務所にいながら受付をとれます。
申請が受付られたら、融資したC銀行へ法務局の「受付のお知らせ」をFAXし、無事に法務局に受付されたことを伝えます。
その後、法務局で今回出された登記申請の審査がされ、問題なければ1~2週間以内に名義変更等の登記が完了します。
司法書士は、法務局から引き揚げた書類を整理し、関係当事者へそれぞれ書類をお引渡しして業務終了です。
いかがでしたでしょうか?
司法書士が不動産の決済の場で行っていることを私なりにご紹介してみました。
この業務を「立会い」といいます。不動産という重要な財産の取引を無事に成立させるために、私たち司法書士がいます。
どうぞ安心してお任せいただきたいと思います。