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代表取締役等住所非表示措置について
令和6年10月1日から、株式会社の登記事項のうち、代表取締役等の住所の一部を非表示にすることを申し出ることができるようになります。
以前から、代表取締役の住所が公開されていることについて、起業家の皆様を中心に、住所の非公開・プライバシーの保護を求める声が多くありました。特にインターネットの普及により、以前よりも簡単に登記情報にアクセスできるようになったため、興味本位で住所を調べて晒されたり、場合によってはストーカーなどの犯罪被害に発展することもあるという話も聞こえてきます。
一方で、「法人」という実体がないものとの取引に際して、最終的な責任の所在が明らかにされていないと「安全に取引ができない」という声があります。当該法人に対して裁判を起こそうとしたとき、会社の住所が出鱈目で存在しないというケースの場合、その上代表者の住所が公示されていないとなると、速やかな法的措置を講ずることができず、取引上大きな損害が発生する恐れもあります。
今回の改正は両者のバランスをとって改正されるものです。
既に法務省から通達(法務省民商第116号令和6年7月26日)が出ており、私の周りでもちらほら「あれってどうなるの?」という問い合わせをいただくようになりましたので、現時点でわかる範囲でポイントを絞って以下解説していきたいと思います。
私個人としては、非表示措置の申し出を行うかどうかは「しばらく様子見たほうがいいですよ」と伝えています。
今の時点では、そのメリットよりもどの程度のデメリットがあるのか計り知れないため、ある程度施行後の実務の運用を確認してからでも遅くないと思っています。
施行時期
令和6年(2024年)10月1日
対象法人
株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人等(「以下代表取締役等」)に限られます。
※有限会社の代表取締役、合同会社の代表社員、一般社団法人の代表理事などは対象外
非表示措置措置後の表記
行政区画以外のものを記載しない措置ですので、仮に私の事務所の住所の表記だと以下のようになります。
(措置前)大分市賀来南一丁目1番83-202号
代表取締役 〇〇
(措置後)大分市
代表取締役 〇〇
非表示措置の申し出方法
(注意)住所非表示措置の申し出だけを単独ですることはできません。
代表取締役等の住所が登記事項に含まれる登記の申請と同時でなければ申出できません。
具体的には以下のような登記です。
①設立の登記
②本店移転登記(管轄外)
③代表取締役等の就任(重任)、住所変更登記
非表示措置の申し出に際して必要な書類等(上場企業以外)
(1)株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面(以下いずれかひとつ)
①株式会社が受取人として記載された配達証明書+株式会社の商号・本店所在場所が記載された郵便物受領証
②登記の委任を受けた司法書士等において株式会社の本店所在場所における実在性を確認した書面
(2)代表取締役等の住所等を証する書面(次のようなもの)
①住民票
②戸籍の附票
③印鑑証明書
④氏名住所が記載された日本国領事が作成した証明書
⑤運転免許証やマイナンバーカードのコピーに原本証明したもの
(3)株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(いずれか1つ)
①登記の委任を受けた司法書士が犯収法の規定に基づき実質的支配者の確認をしたもののコピー
②実質的支配者の本人特定事項についての供述を記載した書面で公証人法の規定に基づく認証を受けたもの ※期限あり
③定款認証にあたり申告した実質的支配者の本人特定事項についての申告受理及び認証証明書 ※期限あり
非表示措置のデメリット
法務省における代表取締役等住所非表示措置についてのサイトでは以下のような注意書きがあります。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。
そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な御検討をお願いいたします。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法(平成17年法律第86号)に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があります。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、登記の申請書には代表取締役等の住所を記載する必要があるため、登記されている住所について失念することのないよう御留意ください。
詳細は、法務省サイトをご確認ください。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html
最後に
現在、金融機関、不動産会社、その他司法書士などの士業が法人から依頼を受けるに際し、本人確認が義務付けられており、その方法としては、一般的に法人の登記事項証明書上の代表取締役等の住所氏名と、当該代表取締役の住所氏名の記載がある本人確認資料(免許証やマイナンバーカード)の一致をもって確認しています。
非表示措置をとっている法人の場合、別途法人の印鑑証明書の取得を依頼したり、その他同一人であることを確認するための補充資料をどの程度求めていくのかまだ未知数ですが、他の非表示措置を講じていない法人に比べて確認コストがかかることは明白です。
いよいよ今度の10月1日から施行されますが、まずは様子を見て社会の混乱、非表示措置をとった会社への影響がどの程度あるのかしっかり情報収集し、自社にとってのメリットとデメリットを十分に検討してから、その上でメリットが上回ると判断した場合に限り、非表示措置の申し出を行うことをおすすめします。
安易な判断で非表示措置の申し出を行うことなく、登記の専門である司法書士や顧問税理士、メインバンクの金融機関担当者などと十分相談の上で判断することをおすすめします。