株式会社の役員の任期は本当に10年にしたほうがいいのか? - あいはた司法書士事務所

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株式会社の役員の任期は本当に10年にしたほうがいいのか?

【株式会社の役員の任期は本当に10年にしたほうがいいのか?】

まず、株式会社の役員には法律上、任期があります。 ※1

取締役の任期は、原則2年

監査役の任期は、原則4年

任期が切れた役員は任期満了により退任しますので、

同じ人がそのまま続ける場合でも、あらためて役員に選びなおした上で、その旨の登記が必要です

(なお、正確には、「選任後2年(監査役は4年)以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会終結の時まで(会社332条1項)」のため、「ぴったり2年」ではありませんが、今回の説明上、わかりやすく「2年」「4年」とします。)

平成18年5月1日に会社法が施行されて以降、会社の実情に応じて役員の任期を原則の「2年」から「最長10年」まで自由に定款で設定できるようになりました ※2

任期を伸張する主なメリットは「登記費用の節約」です。

どういうことかというと、

法律上は、2年に1回登記をする必要があるので、その都度、登記の費用がかかります。

登記を申請する際は、登録免許税という税金が1万円 ※3

司法書士に登記申請を依頼する場合、その手数料がかかります ※4

「ずっと役員の構成が変わらないのに2年に1回登記費用がかかるのはもったいない。」

そう思った会社はこぞって任期を10年にしました。

しかし、メリットがあればデメリットもありますので、

その両方を比較検討した上で、自社の実情にあわせて任期の設定をする必要があります。

つまり、「経費がもったいないから10年という安易な決め方ではリスクがある」ということです。

では、そのリスクとは何でしょうか?

主に以下2つが考えられます

リスク①

任期途中で役員をクビ(=解任)にした場合、解任理由に正当な事由がない場合は、損害賠償のリスクがある

リスク②

任期が長期のため、任期の管理を忘れてしまう。

10年の任期満了後すみやかに登記をしないと過料というペナルティを課せられる。

さらに、何の登記をしないまま12年経過すると会社を解散させられてしまう場合がある。

それぞれ説明します

まず、リスク①

創業当初は志を同じくした仲間でも、事業を継続・拡大していく中で意見の相違や、対立をすることはあります。

ある役員を辞めさせたいと思ったとき、本人が自分から辞任してくれればいいですが、

辞任してくれない場合、この「任期」の問題が出てきます。

最初に説明したとおり、役員には任期がありますので、任期が満了すれば、会社との委任契約が終了します。

その後開かれる株主総会で再任されない場合は、そのまま会社を去ってもらうことができます。

しかし、任期中は、本人が自発的に辞めない以上、辞めてもらうにはクビにするしかありません。

だからといって、

特に会社に損害を与えるような行為もしていないのに、

「気に入らないから」といってクビにできるのでしょうか?

結論として、

議決権の過半数以上の株主の同意があれば、その役員をクビにすることはできます(会社法339条1項)。

一般的には、会社の社長が株を過半数以上もっていることがほとんどですので、

ある意味自分の一存で気に入らない役員をクビにすることはできます。

しかし、注意すべきは、そのクビにする理由に「正当な事由」がない場合は、

逆にそのクビにした役員から会社に対して、

クビによって生じた損害の賠償を請求されるリスクがあるということです(会社法339条2項)。

では、その損害賠償はどのくらいになるのかというと、

一般的には「任期の残存期間分の役員報酬相当額」といわれます。

ここで、役員の「任期」が問題になってきます。

下手に任期を長期にすると、ある役員と揉めたときに、

支払わないといけない損害がとんでもない金額になる可能性があるのです。

10年分の登記にかかる経費なんて、役員の1ヶ月分の報酬にも満たないケースがほとんどではないでしょうか・・・

潜在的な損害賠償リスクを抱えるくらいなら、数年に一度、役員の仕事ぶりをチェックして

再任するか退任してもらうか定期的に判断するほうがいいのではないでしょうか?

次に、リスク②(任期が長期のため、任期の管理を忘れてしまう)

2年、4年くらいなら覚えていられるかもしれませんが、

ただでさえ忙しいのに、「10年後に役員変更登記が必要だ」ということを覚えていられる経営者がどれほどいるのでしょうか?

会社法改正前(平成18年5月以前)は、2年ごとに登記しなければいけませんでしたので、

多くの中小企業が、司法書士から「社長、今年は役員変更の年ですのでぼちぼち準備しましょう」

と2年に1回連絡を受けてきちんと登記をしていたと思います。

司法書士は一般的に顧問契約を結ぶことは少ない士業ですが、

2年に1回の役員変更登記の依頼を受ける会社にとっては、

登記の準備の打ち合わせの際、ついでに他の法律相談をしたりと、

ある意味で顧問のような存在だったと思います。

しかし、経費節約という名目から定款で任期伸長する会社が増え、

役員変更以外の登記をしないような会社の中には、

自然と司法書士との関係が切れてしまったところも多いのではないでしょうか

そうなると、「顧問の税理士先生が任期管理をしてくれるだろうか」とも思いますが、

私が知り合いの税理士何人かに役員の任期の管理をしているかたずねたところ

「株主の構成は申告の関係で毎年確認するが、役員の任期までは見ていない」という税理士がほとんどでした。

となると、そのような長期任期の管理は、やはり自社で責任を持ってやるしかないということになります。

会社法という法律は旧商法に比べ、「定款自治」の色合いが強いのが特徴です。

「定款自治って何か」というと、ざっくりいうと

「原則は、こうです。でも法律の範囲内なら定款で自由に自分の会社にあったルールを作っていいですよ」というものです。

会社の登記は原則「効力発生日から2週間以内」にしなければいけません

登記をしないまま放置すると「過料(かりょう」というペナルティが課せられます。

事情を聞くと、「任期があるということをそもそも知らなかった」という会社もあります。

そういう会社は設立登記を司法書士に依頼せず自社でやっている場合が多いです。

会社を経営していく以上、「会社法を知らなかった」では済まされません。

以上から、役員の任期を長期にするのに適した会社は以下の会社と考えます。

①自社においてきちんと任期管理できる仕組みがある会社(士業との顧問契約含め)

②役員間の損害賠償リスクが限りなく少ない会社(役員が自分一人又は親族のみ)

上記にあてはまらないような会社は、この機会に自社の定款の任期の規定を確認し、自社の実情にあった任期になるよう定款の規定を見直すことをおすすめします。

定款変更の手続きその他会社の登記手続きについてご不明な点がある場合は、お気軽に当事務所までご相談ください。

※1 有限会社は、現在「特例有限会社」という株式会社という扱いですが、役員には原則任期はありません

※2 任期を10年まで伸張できるのは、株式に譲渡制限規定をおいている非公開会社であり、上場会社などの公開会社は任期を伸張できません

※3 資本金が1億円以下の会社の場合。資本金が1億円を超える会社は登録免許税は3万円。

※4 司法書士の報酬は自由化されており、事務所ごとに異なります。