父が死亡し、遺産はすべて母に相続させたいのですが、その場合は子は「相続放棄」すればいいのでしょうか? - あいはた司法書士事務所

相続・遺言・成年後見

父が死亡し、遺産はすべて母に相続させたいのですが、その場合は子は「相続放棄」すればいいのでしょうか?

これは絶対にやってはいけない間違いです。

ご相談の趣旨は、お父様名義の不動産や預貯金がある場合に、全て配偶者であるお母様に相続してもらって、「自分たち子どもは遺産は一切いらない」ということかと思います。

この場合、その子ども全員が「相続放棄」の手続きを取ってしまうと、想定していない大変面倒なことになる場合があります。

具体的にどうなるのでしょうか?

(1)亡くなったお父さんの親(子から見た祖父母)が存命の場合

   →子らの代わりにその祖父母が相続人となります(第2順位)

(2)祖父母はすでに他界している場合

   →子らのかわりにお父さんの兄弟姉妹(子から見た叔父叔母)が相続人となります(第3順位)※
    ※叔父叔母が父より先に死亡している場合はその子(いとこ)が相続人となります。

 

子が間違って相続放棄をしてしまった場合、「お父様の遺産を誰が相続するのか」について、今後、お母さま一人で手続きを進めることはできず、祖父母または叔父叔母の了解を得ないといけなくなります。

ご親族が事情を理解してくれて、当初の予定通り「全て配偶者が相続する」という遺産分割協議に協力してくれればいいのですが、ご家庭の事情によっては、すんなり遺産分割協議に協力してくれないケースもあります。場合によっては、遺産分割協議に協力する代わりに一定額の金銭等を求められる場合もあります。

 

 

そもそも、なぜこのような誤解が生まれてしまったのでしょうか?

今回のケースのように「特定の相続人一人にすべての遺産を相続させ、他の相続人は何も相続しない」というケースは実務上よくあります。

「お母さんにすべて」「長男にすべて」などです。

特定の相続人一人にすべての遺産を相続させ、他の相続人は何も相続しないためには、遺産分割協議書にその旨の記載をして相続人全員の署名押印が必要です。

この場合に他の遺産をもらわない相続人達がとる行動を、俗に「遺産放棄」と呼んだりします。

※「遺産放棄」は法律用語ではありません。

「自分はプラスの財産はいらないよ」という意思表示のことなので、イメージとして「遺産放棄」という言葉がしっくりくるのか一般の方の中ではよく使われています。

そこで、今回の「母親にすべて相続させたい」というケースにおいて

→自分たち子どもは「遺産放棄」すればいい

→インターネットや書籍などで情報収集

→「遺産放棄?」「相続放棄?」「あれ?どっちだろう?よくわからないけど、『相続放棄』は期限もあるみたいだし、急いでやらないと!」

と専門家に相談しないまま、家庭裁判所でうっかり「相続放棄」をしてしまって大変なことに・・・

 

「相続放棄」とは法律の期限内に家庭裁判所に申し立てをすることで、「相続開始の当初から相続人ではなかった」して、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないものです。

※主に借金などマイナスの財産が多い場合や相続手続きに一切関わりあいたくない場合に利用します

子は、第1順位の相続人です。
その第1順位の相続人である子が全員相続放棄した場合、亡くなった人に「法律上は子がいない」ことになり、第2順位、第3順位・・と相続権が移っていきます。

今は、昔に比べて法律に関する情報も溢れています。裁判所の書式も簡単に手に入れることができるため、弁護士や司法書士に相談せずに自分で手続きをとることも以前に比べてずっとやりやすくなったと思います。

それでも、ネットや書籍の情報がすべて正しいわけではありません。そして残念なことに法律の専門家を名乗る士業の中にも、ホームページなどで誤った知識を公開している事務所も散見されます。

「法の不知は許されず」とあるように、法律の手続きは後から「知らなかった。そんなつもりはなかった」といっても簡単には覆すことはできません。

後から後悔しないためにも、相続に関する手続きについてお悩みがある場合、なるべく弁護士・司法書士へご相談ください。